先に結論
- AIで生成した音楽でも、YouTubeの著作権チェック(Content ID)に一致と判定されることがあります。
- 直し方は、異議を申し立てるより、指示文の方向を変えて作り直すほうが速くて確実でした。
- 映像を作り直す必要はありません。映像を再圧縮しない方法で音声だけ差し替えれば、画質は劣化しません。
2026年8月に、実際に起きたことを書きます。
何をしたか
自社で撮影した沖縄・座間味島の空撮映像(4分37秒)に音楽を付けて、YouTubeにアップロードしました。
音楽は外部から借りたものではありません。この映像のために、AI(ElevenLabs)で生成したものです。同じ日に4本アップロードし、4本とも音楽はAIで生成したものでした。
何が起きたか
1本に、著作権の申し立てが付きました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 一致したとされた楽曲 | Sacred Stillness(Pranav Aditya, Vedam) |
| 申立人 | UMG(Universal Music India Pvt Ltd. の代理) |
| 検出された場所 | 4:15〜4:37 の22秒 |
| 影響 | 一部の地域でブロック/収益化が制限される可能性 |
| チャンネルへの影響 | なし(著作権侵害の警告ではありません) |
同じ日に上げた残りの3本には、申し立ては付きませんでした。
YouTubeには、アップロードされた動画の音や映像を、権利者が登録した作品と自動で照合する仕組みがあります。今回はそこで「一致する」と判定された、ということです。
なぜ引っかかったのか
断定はできません。ただ、心当たりはありました。
このときの指示文は、瞑想やアンビエントに寄った言葉を並べていました。「spacious(広がりのある)」「peaceful(穏やかな)」「quiet awe(静かな畏敬)」といった調子です。
この系統の音楽は、似た響きのものが多くあります。AIで独自に作ったつもりでも、結果として既存曲の特徴に近づいてしまったのではないか——そう考えました。あくまで推測です。
どう直したか
異議申し立てはしませんでした。理由は2つあります。
ひとつは、相手がUMGだということ。もうひとつは、AIが生成した曲が完全に独自のものだと、こちら側で断定できないということです。断定できないことを根拠に争うのは、筋が良くありません。
そこで、作り直しました。指示文を、次のように振り直しました。
足したもの
- felt piano(フェルトを挟んで柔らかい音にしたピアノ)の明確な旋律
- pizzicato(弦を指ではじく奏法)の弦
- 84BPM の、前へ進む拍
- 映画音楽の構造(提示 → 展開 → 高揚 → 回帰)
はっきり禁じたもの
meditation / new age / sustained drone / tanpura / harmonium / singing bowl / chanting / sitar / devotional
つまり、「ぼんやり漂う音楽」をやめて、「はっきりした旋律と拍のある音楽」に振ったわけです。
なお、今回使っているサービスは定額のプランなので、作り直しに追加の費用はかかりませんでした。従量課金のサービスであれば、作り直したぶんの費用はかかります。
結果
作り直した音楽に差し替えて、もう一度アップロードしました。
この動画に申し立ては検出されませんでした。
著作権で保護されたコンテンツは動画で使用されていません。
1回で消えました。
曲の性格が変わったことは、音量の推移を測っても分かります。完成した動画の音声を10等分して、区間ごとの平均音量を測った値です(1区間は約27.7秒。数字は0に近いほど音が大きく、マイナスに振れるほど小さくなります)。
| 区間 | 作り直し前 | 作り直し後 |
|---|---|---|
| 1 | -15 | -15 |
| 2 | -16 | -16 |
| 3 | -15 | -15 |
| 4 | -15 | -13 |
| 5 | -16 | -13 |
| 6 | -14 | -13 |
| 7 | -14 | -13 |
| 8 | -17 | -16 |
| 9 | -20 | -20 |
| 10 | -34 | -23 |
申し立てが出た4:15〜4:37は、最後の区間(10)にあたります。作り直し前はここで −34 まで落ちていました。作り直し後は、中盤の4区間が −13 で揃って持ち上がり、最後も −23 でとどまっています。エネルギーの流れが別物になりました。
映像は作り直さなくていい
ここがいちばん実務的に効いたところです。
4分半の空撮映像を書き出し直すと、それなりに時間がかかります。しかし音声だけを差し替えるなら、映像には一切触らずに済みます。
動画を扱う無料のソフト「ffmpeg」で、次のように書きます。
ffmpeg -i 元.mp4 -i 新しい曲.mp3 \
-filter_complex "[1:a]loudnorm=I=-14:TP=-1.5:LRA=11,afade=t=in:st=0:d=2.5,afade=t=out:st=274:d=3[a]" \
-map 0:v -map "[a]" -c:v copy -c:a aac -b:a 192k -shortest -movflags +faststart 出力.mp4大事なのは -c:v copy の部分です。映像を再圧縮せず、そのまま写し取ります。
実際に、書き出したファイルの先頭フレームを元のファイルと照合したところ、完全に一致しました。画質の劣化はゼロ、処理も数十秒で終わります。
逆に言えば、再圧縮する編集ソフトで差し替えると画質は落ちます。音声を差し替えるだけなら、映像に触らない方法を選んでください。
もうひとつ直したこと ― 説明欄の書き方
申し立てを受けたとき、動画の説明欄にはこう書いていました。
音楽:この映像のために制作したオリジナル
これを、こう変えました。
音楽:AIで生成(ElevenLabs)
第三者が権利を主張している状態で「オリジナル」と書くのは、事実とずれます。「AIで生成」と書けば、誰の主張とも衝突せず、開示としても正確です。
これから同じことをする方へ
- AIで作った音楽だから安全、ということはありません。上げたら申し立て欄を必ず見てください。
- 申し立ては後から付くこともあります。一度確認したから大丈夫、ではありません。
- 引っかかったとき、争うか作り直すかは選べます。今回は作り直すほうが速いと判断しました。
- 今回は、指示文の方向を変えるだけで結果が変わりました。ただしこれは1回ぶんの手応えで、法則として確かめたものではありません。
- 説明欄には、事実だけを書いてください。
弊社では、ドローンによる空撮から、映像の編集、音楽の生成までを自社で行っています。撮るところから仕上げまでを一貫して扱うので、こうした細かい詰まりも自分たちで解いています。空撮や映像制作のご相談は、お問い合わせからお気軽にどうぞ。




