AI や業務システムを入れたのに、思ったように使えない。新しいシステムに乗り換えたら、途中で「これはできない」が次々に見つかった。こうした話は、めずらしくありません。
うまくいかなかった理由として、よく挙がるのは「道具が合わなかった」「社員が慣れなかった」です。けれど、弊社が仕事で見聞きした例では、根が深かったのは別の所でした。自社の仕事が何をしているかが、文書になっていなかったことです。
弊社は、システム導入を専門にしている会社ではありません。毎日 AI と仕事を回している立場から、気づいたことを書きます。なぜそれが起きるのか、そしてシステムを替える前に、AI を使って何ができそうかをまとめました。
AI の導入が失敗する原因は、どこにあるのか

注文が入る、出荷する、入金を確かめる。こうした表の流れなら、多くの会社で書けます。フローチャートにするのも、それほど難しくありません。
つまずきやすいのは、その流れの中に溶け込んでいる例外です。たとえば、次のようなものです。
- 一部の取引先だけ、締め日や請求書の形が違う
- 決まった地域にだけ、別の送り方をしている
- ある商品と一緒に頼まれたときだけ、値引きの計算が変わる
- 忙しい時期だけ、受け付けと処理の順番を入れ替えている
長く使ってきたシステムでは、こうした「この場合だけ」が、仕事の手順書ではなくプログラムの中だけに継ぎ足されていることがあります。いつもシステムが黙ってやってくれていることなので、使っている社員も、それが特別な処理だと気づきにくい場合があります。そうなると、表の流れを書き出しても、例外は出てきにくくなります。
そのまま新しいシステムに乗り換えると、「これは新しいシステムではできない」と分かるのが、作り始めてからになりがちです。ある会社の業務システムの乗り換えでも、新しいシステムでできないことの一覧がまとまったのは、開発を頼んでから、ずいぶんたってからでした。
なぜ、仕事のやり方は書かれないままなのか
ここからは、弊社の見立てです。よくある形は、次の3つです。
- 書ける人が、もういない。 システムを作った人や、全体を知っている人が辞めていて、残った人は目の前の仕事で手一杯です。
- 書く仕事は、成果に見えない。 仕事のやり方を書き出しても、その日の売上は増えません。だから後回しになりやすい仕事です。
- 「新しい道具なら何とかなる」と考えてしまう。 新しいシステムや AI がまとめて解決してくれると思うと、「何ができないか」を先に調べる理由が弱くなります。
どれも、社員の誰かが怠けているから起きることではありません。こうした事情があると、仕事のやり方を書き出して確かめる前に、作り始めてしまいやすくなります。その順番で進めると、道具を替えても、同じ例外の所でつまずくおそれがあります。
AI を使えば、この問題は消えるのか

AI は、PHP や Python など、よく使われるプログラムの言語の書き方を知っています。弊社でも、AI に Python のプログラムを書かせて、毎日の仕事を回しています。人のエンジニアに頼むときに壁になりやすかった「言語の違い」で止まることは、弊社の仕事では少なくなりました。ただし、大きなシステムの全体を AI がどこまで読み解けるかは、システムによって違い、弊社でも確かめていません。
けれど、御社の仕事の中にしか無い知恵は、AI も最初から持っていません。どの取引先が例外か、なぜその順番で処理しているのか。どこにも書かれていなければ、AI にも分かりません。
つまり、書かれていない仕事のやり方は、AI を入れても残ります。AI エージェントを導入するときも同じです。会社の決まりを渡さないまま使い始めると、毎回同じ説明をし直すことになり、使っても手間が減らない、という形でつまずきやすくなります。
AI エージェントがパソコンの中で実際に何をしているかは、note の「AI エージェントと ChatGPT は何が違うのか」で詳しく書いています。
システムを替える前に、AI で仕事を棚卸しする

弊社が考えているのは、順番を入れ替えることです。システムを作り直す前に、まず AI を毎日の仕事に入れてみます。
- AI を、いまの仕事に入れてみる。 システムはそのままで構いません。報告の下書き、表の集計、問い合わせの整理など、毎日の仕事の一部を AI に頼みます。
- 使いながら、手間と例外を記録して数える。 どの仕事にどれだけ時間がかかっているか。どこで「この場合だけ」が出てくるか。AI に頼むと、例外のところで説明や直しが要ることが多いので、その説明や直しを記録しておきます。社員に聞くときは、「いつもと違う処理をするのは、どんなときですか」と聞くと出てきやすくなります。
- 記録を、AI に読ませて一覧にする。 たまった記録を AI に読ませて、「記録した範囲で見つかった例外」の一覧の下書きを作らせます。下書きは、現場の人が1つずつ確かめます。古いシステムの中だけにある例外は、これだけでは拾いきれないこともあります。
こうしておけば、いざシステムを替えるときに、例外の手がかりがすでに手元にあり、話が進みやすくなる可能性があります。新しい道具でできるかを1つずつ確かめるのも、手がかりがあれば始めやすくなります。ただし、これは弊社の見立てで、システムの乗り換えで実際に試したわけではありません。
記録やプログラムを AI に渡す前には、パスワードや鍵、お客様の個人情報が入っていないかを先に確かめてください(弊社の考え方は「情報セキュリティへの取り組み」に書いています)。
弊社では、こうしています
弊社の代表は、自分の事業で、記事・サイト・動画・広告・経理までを、Claude Code という AI の道具と回しています。そこで最初に作ったのが、AI が仕事を始めるたびに読む決まりの文書です。いまは211行あります。困ったことと直し方を残す「作業の知恵」は、通し番号で970を超えました(2026年10月28日時点)。
これらは、仕事の例外を書き出したものでもあります。たとえば、「このサイトの記事は AI が公開してよい。ただし、取引先の仕事の公開・送信・お金のボタンは人が押す」。こうした「この場合だけ」を書いてあるので、AI に毎回説明し直さずに済んでいます。
人と AI の持ち場の分け方は「生成AI導入支援で最初に決めるのは「役割の分け方」です」に、業務ごとの進め方は「Claude Code の企業導入は、業務ごとに5段で進める」に書いています。
まとめ
AI やシステムの導入でつまずく理由の一つに、自社の仕事が文書になっていないことがあります。とくに「この場合だけ」という例外は、表の流れを書いても出てきにくいものです。
システムを替える前に、まず AI を毎日の仕事に入れて、手間と例外を記録して数えていく。そうすると、仕事の棚卸しが少しずつ進み、あとでシステムを替えるときの足場になるかもしれません。
AI を使って、いまの仕事を棚卸しする(何をしていて、どこに例外があるかを書き出す)ご相談なら、お受けできます。システムの選定や開発そのものは、専門の会社にご相談ください。お問い合わせからお気軽にどうぞ。

