生成AIを仕事で使い始めるとき、多くの会社が最初に作ろうとするのが社内ルール(利用ガイドライン・社内規定)です。調べると、盛り込む項目の一覧や雛形がたくさん見つかります。一方で、項目をそろえて配ったのに守られない、という話を聞くこともあります。
弊社は、記事づくり・数字の点検・資料づくりなど、毎日の仕事の多くを AI(主に Claude Code)に任せています。その中で、決まりは「書いただけ」では働かないことを何度も見てきました。この記事では、項目の一覧ではなく、決まりをどこに置くと守られるかを、弊社で実際に起きた出来事と一緒に書きます。最後に、叩き台に使える社内ルールのサンプルを1枚載せます。
■ この記事の要点
- 書いた決まりは、そのままでは働かないことがある:決まりを書いた日に数えたら、82行のうち77行がすでに決まりを超えていた実例があります
- 決まりを3つの層に分ける:①AIへのお願い(決まりの文書)②設定で止める ③人が確かめる。どの層に置くかで守られ方が変わります
- 決まりは出来事から作り、回しながら直す:情報が外に出た・本番を誤って変えたなどの重い出来事は1回目から止めて報告し、軽い困りごとは2回起きたら決まりか設定に足します
社内ルールが「書いただけ」で終わる理由
弊社の AI は、仕事を始めるたびに、決まりの文書と、作業のメモの目次を読んでから動きます。あるとき、その目次の1行を「80字まで」と決めました。決めたその日に、すでにあった82行を数えると、77行が80字を超えていました。守れない数字を、決まりにしていたのです。しかもその決まりは、AI が毎回読む場所ではなく、設計のメモの中に書いてありました。
そこで、実際の長さを見て数字を直し、決まりを毎回読まれる場所へ移し、超えた行は機械が差し戻す仕組みにしました。いまは、超えた行がそのまま残ることはありません。
社内ルールも同じです。「パスワードを入力しない」「個人情報を入れない」と書いて配っても、読まれない場所にあったり、急いでいるときや AI が先回りして動いたときには、書いた紙は止めてくれません。大事なのは、項目をそろえることより、それぞれの決まりを、守られる場所に置くことです。
決まりを3つの層に分ける
弊社では、AI に関わる決まりを次の3つの層に分けて置いています。
① AIへのお願い(決まりの文書)
Claude Code なら、CLAUDE.md という文書に書いた決まりが、毎回自動で AI に渡ります。「分からないことは推測で進めず、分からないと言う」「頼まれていないことは勝手に進めず、提案として出す」のような、仕事の作法を書く場所です。
ただし、これはあくまでお願いです。毎回読まれますが、破れないように止める仕組みではありません。書き方は CLAUDE.md と AGENTS.md の書き方 にまとめています。
② 設定で止める(鍵をかける)
絶対にやってほしくないことは、お願いではなく設定で止めます。弊社の設定では、たとえば次の操作を AI ができないようにしています。
- 鍵やパスワードを入れておくファイル(.env など)と、鍵の置き場を読むこと
- フォルダをまとめて消す操作と、履歴を強制的に上書きする操作
- 管理者の権限で動かす操作
社内のファイルのふつうの削除や、作業を巻き戻す操作は、止めずに「AI が毎回、人に確認してから行う」側に置いています。会社向けのプラン(Team・Enterprise)なら、こうした設定を管理画面から社員全員に配ることもできます。方法は Claude Code の企業導入 の記事に書きました。
設定を入れたら、本当に止まるかを一度試します。会社が管理していないパソコンでは、使う人が設定を外せることもあるので、設定だけに頼らず、次の③と組み合わせます。
③ 人が確かめる
設定では止められないこともあります。数字が正しいか、その文章を外に出してよいか、という判断です。ここは人の持ち場として残します。弊社では、鍵の保管、メールの送信や外のサービスでの削除・支払いのボタン、外に出す前の数字の照合は、人が受け持つと決めています。
置き場所に迷ったら、まず設定で止められないかを考え、止められないものを文書と人の確認で受け持つ、と考えます。機械で数えられることは設定や道具へ、判断が要ることは人へ、毎回の作法は文書へ、という分け方です。
弊社の決まりと、それが生まれた出来事
弊社の決まりの多くは、最初から考えて作ったものではありません。実際に何かが起きて、そのたびに足してきたものです。代表的なものを、出来事と一緒に並べます。
鍵の置き場は、AI から触れないようにする(設定)
この記事を書いた日、2台目のパソコンでサーバーに入るための鍵を作ろうとしました。AI に頼むと、鍵の置き場に触る操作が設定で止まりました。そこで、鍵は人がパソコンの「ターミナル」で作り、AI には秘密の鍵の中身を見せず、サーバーに登録するための「公開鍵」(見られても困らない側の鍵)だけを渡しました。止まったのは、決まりどおりに守りが働いたということです。
鍵の値を写して保管する手番は、人に渡す(人)
外部のサービスで鍵を発行したとき、画面に「もう一度表示することはできません」と出ました。AI はそれを見て、消えてしまう前にと、自分で値を読み取って保存してしまいました。鍵は消えても発行し直せます。それからは、画面が「取り返しがつかない」と言うときほど、写して保管する手番を人に渡すと決めています。
エラーの中身を、そのまま外に見せない(文書)
弊社が作った Web の道具で、不具合の原因を早く知りたくて、外部サービスから返ってきたエラーの文章をそのまま画面に出しました。ところが設定の取り違えで、そのエラーの中に鍵そのものが入っていました。約2分間、外から鍵が取れる状態になっていました。「ここにはこれしか入らないはず」は、外に出してよい理由になりません。
本番に届く道具は、読み込んだだけでは動かない作りにする(設定)
配信中のメールを直す道具を作るとき、古い道具から部品を借りました。その古い道具は、読み込んだだけで本番のメールへ送る作りになっていて、配信中の8通が別の文面に上書きされました。上書きされていたのは深夜の十数分で、すぐに元へ戻し、8通とも中身を照らし合わせて確かめました。それからは、送る・公開する道具には、読み込んだだけでは動かない止め金を付けています。
外の AI に渡す資料は、名前を伏せて、最後に通して読む(人)
録画の文字起こしを外の AI に渡す前に、人の名前を伏せました。ところが「〇〇さん」の形だけを探して置き換えたので、敬称の付いていない家族の名前が残っていました。気づいたのは、渡したあとでした。いまは、名前らしい言葉を全部並べて目で確かめ、伏せたあとにもう一度読み直してから渡しています。名前を全部伏せても、組み合わせから相手が分かることもあります(資料の匿名化)。
数字と固有名詞は、原本と1つずつ照らす(人)
講義の文字起こしの校正を AI に頼んだら、話者が言った新しいモデルの名前が、AI の知っている古い名前に書き換わっていました。エラーは出ず、文章は自然です。AI の間違いは、自信のある顔でやってきます。外に出す前に、数字・固有名詞・出典だけは、原本と1つずつ見比べています。
外から持ってきた拡張は入れない(文書)
AI には、機能を足す拡張(スキルやプラグイン)を入れられます。講座で、合図の言葉を仕込んで外へデータを送る拡張が出回っていると聞きました。作った本人が意図していない場合もあるそうです。弊社は、他の人が作った拡張は入れず、必要なものは自分で作ると決めています。
生成AIの社内ルールのサンプル(1枚)
上の決まりを土台に、会社で配る形に言い直したサンプルです。[ ]は、その決まりを置く層です。空欄を埋め、自社の事情に合わせて足したり削ったりして、社内で確認してから配ってください。
生成AIの利用ルール(サンプル)
対象:___(例:全社員・業務を委託している方)/管理担当者:___/相談・報告先:___/使ってよいサービスと用途:___
- 目的:AI は下ごしらえと点検に使う。決めるのは人。[お願い]
- 使う道具:会社が契約したアカウントと、上で決めたサービスだけを使う。それ以外のサービス(試しに使うものなど)は、使う前に管理担当者の承認を取る。個人のアカウントで会社の資料を扱わない。[お願い・人]
- 学習の設定:管理担当者が、契約しているプランと管理の設定で、入力が学習に使われない形になっているかを確かめる。社員は、自分の画面で変えられる項目を確かめる。[人]
- 入れない情報:パスワード・鍵・カード番号は入れない。承認を取って、会社が契約していない AI に資料を渡すときは、個人や取引先の名前・数字・社外秘の情報を伏せ、伏せたあとに通して読む。伏せても相手が分かりそうなら、渡さずに相談・報告先に聞く。[お願い・人]
- 鍵:AI に鍵の値を読ませない・書き写させない・保存させない。鍵は人が、会社で決めた保管場所で管理する。鍵の置き場は AI から読めない設定にする。[設定・人]
- 外に届く操作:送信・外のサービスでの削除・支払いは、AI は一覧と下書きまで。押すのは人。公開は、会社で決めた範囲だけ AI に任せる。[人]
- 社内のファイル:ふつうの削除は、AI が人に確認してから行う。まとめての削除と強制の上書きは設定で止める。[設定]
- 外に出す前:数字・固有名詞・出典を、原本と1つずつ見比べる。[人]
- 拡張:原則として、外から持ってきた拡張は入れない。必要なときは、管理担当者が中身を読んで決める。[お願い・人]
- 困ったとき:鍵・個人情報・取引先の情報が外に出た(出たかもしれない)とき、本番のデータやメールを誤って変えた・送ったときは、1回目からすぐに使うのを止めて相談・報告先に知らせ、対策を決める。軽い困りごとは何が起きたかを記録し、同じことが2回起きたら、決まりか設定に足す。[人・お願い]
- 見直し:年に1回、国のガイドラインと照らし、社員の画面の設定を確かめ直す。[人]
サンプルは、弊社の決まりを土台に、会社で配る形に言い直したものです。たとえば拡張は、弊社では入れないと決めていますが、会社によっては必要な場面もあるので、サンプルでは管理担当者の承認制にしています。法的な判断を含む部分(就業規則との関係や契約上の扱い)は、専門家に確認してください。
作ったあとに、回して直す
社内ルールは、配った日が完成ではありません。弊社では次の順で回しています。
- 重い出来事は、1回目から止める:鍵や個人情報が外に出たかもしれないとき、本番を誤って変えた・送ったときは、記録より先に止めて知らせ、対策を決める
- 軽い困りごとは記録する:何が起きて、どう抜けたかを短く残す
- 2回起きたら、決まりか設定にする:軽い困りごとは、1回目は記録、2回目で文書に足すか、設定で止める
- 直したら、実物で確かめる:書いた決まりが守られているかを、数えて確かめる
確かめるときは、導入を進める人の画面だけでなく、社員それぞれの画面でも見ます。同じサービスでも、プランやアカウントによって設定の初期値が違うことがあるからです(学習させない設定は、社員の画面で確かめる)。
年に1回は、国のガイドラインとも照らします。総務省と経済産業省の「AI事業者ガイドライン」は、2026年3月31日に第1.2版が公表され、チェックリストとワークシートも付いています。自社のルールに抜けがないかを見る物差しとして使えます。
まとめ
生成AIの社内ルールは、項目の多さより、それぞれの決まりを守られる場所に置けているかで決まると弊社は考えています。作法は文書へ、絶対に止めたいことは設定へ、判断が要ることは人へ。そして決まりは、実際に起きた出来事から作り、回しながら直していきます。
弊社は、こうした決まりの置き方を含めて、生成AIを仕事に入れるところからお引き受けしています(生成AI導入支援で最初に決めるのは「役割の分け方」です)。「何から決めればいいか分からない」という段階でも構いません。お問い合わせからご相談ください。
出典:総務省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」令和8年3月31日公表(総務省のページ・2026年10月15日確認)

